トークセッション 「本+空間(hontasu 空間)Vo.1」に参加しました

先日(2014年10月11日土曜日)、奈良県立図書情報館にて
トークセッション 『本+空間(hontasu 空間)Vo.1』」というイベントに参加しました。

「本+(hontasu/ほんたす)」シリーズ第1回。ゲストは堀部篤史(恵文社一乗寺店長)+内沼晋太郎(ブックコーディネーター)+砂川昌広(とほん店主)。ユニークな店舗づくりをする書店の方々を迎え、「本のある空間」について考え、語り合います。

「本+(hontasu)」は、本を軸に、まつわる周辺にもまなざしを向けながら、それをめぐる世界を考えようというイベントプロジェクトです。イベントを通じて、単に本があるというだけではない、本と人や情報の集まる新たな“場”の可能性について考えます。

イベントは、図書情報館と図書情報館から生まれた活動コミュニティがともに、企画、運営しています。
(奈良県立図書情報館イベントページより引用)

当日はまず20分ずつ砂川さん、堀部さん、内沼さんの順にご自身のお店や活動の説明があり、
その後45分間のパネルディスカッション。
休憩を挟んで3グループに分かれてゲストの方を囲みグループセッションを25分×3回、
最後に質疑応答と全体セッションと盛りだくさんな内容でした。

ゲストお一人目の砂川昌広さんは奈良県大和郡山市にて
4坪の書店「とほん」を経営されている店主さん。

・とほんサイト
[browser-shot url=”http://www.to-hon.com/” width=”200″]

以前勤められていた書店が閉店した後、
奥様の地元大和郡山市にNPOの方の協力を得て「とほん」をオープン。
店の名前は「◯◯と本」から取っており、
様々なことと本が繋がるという意味とのこと。
お店の写真には訪問者が書いたらしき
「◯◯とほん」のメッセージボードが店内に飾られていました。
新刊に加え古本、雑貨の取り扱いもあります。
お店のある場所は創業400年の和菓子屋さんもある歴史の古い商店街。
地元で開かれるフリマ「ひとたらい市」に参加したり
他地域でのイベントにも出店したり、
地元に溶け込む姿勢が感じられる書店さんでした。
4坪の書店ということで本のチョイスが難しく感じられたのですが、
自分のこだわりや趣味を前面に押し出すのではなく、
ジャンルを狭めず偏らないように幅広く、
また流行の本の方が在庫リスクが高く長く売れる良い本を置いている、
というのが印象的でした。
大和郡山市には大型チェーン書店もあるのですが、
それぞれの店がその店なりの本を置いていて
「お客さんが本屋巡りできる」ようになれば良いと考えてらっしゃるそうです。
我が家から近いので、近いうちに訪れたいと思いました。

お二人目のゲスト堀部篤史さんは言わずと知れた
恵文社一乗寺店の店長さん。

・恵文社一乗寺店サイト
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私も何度か訪れたことがありますが、
棚作りに独特の哲学があり、例えば山登り・アウトドアの棚に

が混じっていたり、並んでいる本を見ているとそれだけで楽しく
新たな本との出会いがある書店です。
また、一緒に売られている雑貨や併設されているイベントスペース
COTTAGE」のイベントも魅力的なものが多いです。
お話で最も印象に残ったのは選書のこと。
著者と出版社と書影でその本を恵文社に置く本かどうか、
そして置いて売れるかどうかをかなりの高い確率で判断できるとのこと。
著者のこれまでの作品と出版社のこれまでの出版傾向が
それだけ「身に染み付いている」ということであり、
図書館員として見習わなければと痛感しました。
「恵文社一乗寺店」というお店のカラーと
来店されるお客様のニーズの摺り合わせ、
書店として本を売るという当然の目的を達成するために、
店のカラーとお客様のニーズと売上や出版傾向を
複合的に考えて選書されているその姿勢、
「時間は流れている」というスタンスで日々変化、
あるいは進化されているのが素晴らしく感じました。
堀部さんの書店や地域との関わりについては
こちらの本がさらに詳しいのでぜひご一読ください。

まさにタイトル通り、「左京区」という街のカラーを作り上げた小さな店たちの本。店の単なる紹介ではなく、それぞれの店主の店に対するこだわりや街の中での立ち位置、商売への思想を深く切り取りつつ、それらを繋ぎ合わせて左京区というひとつの街を物語るかのような内容。様々な小さな店が繋がり合うことで、左京区というコミュニティができつつあることが印象的。(ほんともレビュー)

最後のゲスト内沼晋太郎さんは
下北沢にある本屋さんB&B開業者であり、
また本屋ではないお店(服屋さんや雑貨屋さんやカフェなど)に設置する
本をセレクトする「ブックコーディネーター」。
そして本にまつわるノウハウとアイデアを繋げるNUMABOOKSの設立者でもあり
本にまつわる多様な活動をされています。

・B&B
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・numabooksサイト
[browser-shot url=”http://numabooks.com/” width=”200″]

その活動や本に対する考えは

この本に詳述されています。

本というものの定義を紙の本や電子書籍だけに限らず幅広く捉え、なおかつその「本」の可能性、そして「本屋」の可能性を探る著作。出版・書店業界の現状とその問題点を指摘しつつ、しかし「本」と「本屋」にはまだただ未来の楽しみがある。そんな視点で著者ご自身の活動や他の様々な「本」と「本屋」にまつわる活動を紹介して、二つの未来を探っています。(ほんともレビュー)

文庫本葉書」(その本の一節が書かれた封筒に本を密封、どんな本かはわからない)や
その人のおすすめの本(同じくどんな本かわからない)を顔写真と氏名・出身地だけで選ぶという本の売り方の紹介がありましたが、
本を匿名にすることで本選びの悩ましさを軽減しつつ新たな楽しい本選びを創り出していて、
非常に考えられたアイデアだと感じました。
また、B&Bの特徴である「ビールが飲める」「家具も買える」「毎日イベントをする」の三点が
本屋の収入源を支えつつ本屋というものの弱点を補っている話から、
当日内沼さんの口から出た「常に課題意識を持っていること」という姿勢で
本や本屋が持つ課題・弱点を新たな発想で解決していくこと、
そのために日々様々なもの・ことをご自身の中に
積み重ねられていっているのが印象的でした。
「本屋はメディア」という言葉に関してグループトークでお聞きしたのですが、
「本屋は究極の食中花、街の知的好奇心の中心」とのお答え。
また、それまで本屋は本を置いているだけで売れていたのがそうでなくなり、
本に対してのニーズが実用性から知識を刺激するものに変化していること、
その上で本屋自身の個性化が大切だとご説明いただきました。
また、B&Bでは本それ自体だけで本なのではなく、
「本+イベント」で本になっている、というのも印象に残りました。

以上のようなご自身のお店や活動のお話の後
パネルディスカッションやグループトークでも
さらに踏み込んだお話をお聞きすることができたのですが、
ゲストの三者から共通して感じられたのは、
自分たちは「書店をやっている」という矜持を持ちつつ
書店であり続ける、書店を維持していくために
常に日々書店の仕事に挑んでいること、
「自分」を全面に押し出すのではなく周囲の状況や
今ある課題などを分析して自分の仕事を創り上げていっていること。
図書館的には「成長する有機体」と言えそうです。

また、同じく共通するのは「本だけではもはや街の書店は成り立たない」ということ。
街の小さな書店がほとんど見かけられないことからも
既にわかりきっていることではあるのですが、
一方で「どうして本を売るだけで書店が成り立たないのか」
という問題点が本にまつわる業界の共通課題のように思えました。

加えて、個人的にこういった図書館が主ではないイベントに参加すると
いつも私は「図書館員としてこの問題はどう自分に関わるか」
「経済的苦境にある地方に住む人間として、同じことが言えるのか?」
ということを考えます。
今回は図書館員としてこの日お話をされた方々の
「街の書店」の選書に学ぶべき点が多々ありつつも、
図書館というものの役割を考えると全く同じ論理では選書できないこと、
また図書館が生き残っていく上で図書館というものの弱点をもっと考えて
図書館の生き残り策をその弱点から何か発想しなければならないなということ、
そして私が住んでいる地方や他の地方でもしこのような書店をオープンするとしたら…
地域性や他書店のマーケティングや新しい働き方など色々と想像が膨らみました。

今回のイベントファシリテーターは
aun creative firmアートディレクター/デザイナーの森口耕次さんと
RISSIINC.ディレクターの松村倫也さん。

・aun creative firm
[browser-shot url=”http://a-un.net/” width=”200″] ・RISSIINC.
[browser-shot url=”http://www.rissiinc.jp/” width=”200″]

おふたりとも時間通りの進行をしつつ、
パネルディスカッションや全体セッションで
聴き手が更に深く聴きたいと思うことを的確に質問されていました。
このイベントを企画・運営してくださり、
参加の機会をいただき大変ありがたく思います。

また、イベント会場の奈良県立図書情報館を
イベント後見学させていただいたのですが、
「情報館」にふさわしくクリエイティブスペースや研究スペースが多々あり、
今回のように図書館に囚われない幅広いイベントを開催されており、
今後の「本+」のイベントも大変楽しみです。
また参加したく思います。
奈良県立図書情報館のイベント開催に関する趣旨については、
情報館の乾聰一郎のインタビュー記事「いかしごと」をご覧ください。
こちらも「働く」ということに関しての非常に興味深いお話です。

・いかしごと 求める人たちのことばかり考えて仕事をするのは、おかしいと思う。奈良県立図書情報館乾聰一郎インタビュー:前編
・いかしごと 自分にあった仕事なんてありえない。奈良県立図書情報館乾聰一郎 インタビュー:後編

会場に付いてプログラムを見た時に「おぉ、これは予想よりも濃いイベントだ…」と感じたのですが、
その通りに大変考えさせられることや発見の多いイベントでした。
あつかましくも打ち上げにも参加させていただき、
大変充実じた時間を過ごさせていただきました。
ゲストの皆様、企画運営に携われた皆様、ありがとうございました。


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